次に、私なりの感想(反省)を述べさせて頂きます。
 今まで、自分の作成したパスに大変満足していました。これが見事に崩れ落ちました。本当に自分よがりの満足であったことに反省しています。水戸済生会総合病院でのクリニカルパスの創始期ではいわゆる「業務の標準化、チーム医療、インフォームドコンセントの充実」という3本柱のほかに、業務の簡略化が第一目標に掲げられていました。泌尿器科の手術はおおむね、順調に経過しますので、パス施行前も手術日が決まれば、術後の検査予定や退院日が決まるというように、暗黙のうちにパスが施行されるようなものでした。そこで、それをパス表として作成し、1年間ほど活用していました。その後、バイタル経過表(いわゆる温度板)、点滴指示、医師指示、看護記録をまとめた、クリニカルパスを作成し、情報の共有化までもが達成できました。これは大変便利で、我々医師にとってもパスと処方箋があれば、入院時はもちろん、退院まで指示等は新たに記入する必要はありませんでした。看護師にとっても指示の転記も不要で、業務の簡略化に貢献していました。

 泌尿器科の手術症例はほとんどが順調に経過するという自信、と言うよりもおごりがありました。バリアンスの分析の方法もちんぷんかんぷんで様々なバリアンスがあるのに、それを大した問題でないとして、何の対処もしてきませんでした。だから、経過を見直すわけでもなく、パスを改善するでもなく、全く進歩がないまま2年が経過していました。しかし、社会は進歩し医療に大きな要望がかかるようになりました。監視の目も厳しく保険情勢も無駄な医療費の抑制に働いています。病院は生き残りをかけて、急性期医療を主体に対応するようになり、できんば地域医療支援病院を獲得しようとしています。こうした現状を頭ではわかっていても自分で動こうとはせず、泌尿器科のパスは全く進歩しませんでした。今、大いに反省しています。入院日数ももっと、もっと、短くできるでしょう、抗生剤だって、もっと、もっと、少なくてすむでしょう、血液検査もしかりです。今まで漫然としすぎていました。経過がいいのでこれがベストと考えてしまったのです。今後は不要と思われる検査、抗生剤、入院期間などを削除した新たにパスを作成し、バリアンスの分析を行えば、漫然と行ってきた治療が今後必要か否かが判明するでしょう。心気一転、頑張っていこうと決意いたしました。今回の見学会で「アウトカムが出た」と副島先生に喜んでもらえるでしょう。
 最後に冒頭で述べた、講演中の私に投げられた質問について述べさせて頂きます。新聞報道によると「8歳の胆道閉鎖の少女が死に瀕していますが、国内では治療法がなく、海外で移植治療を行わなくては救命できない」という日本の現状があります。しかし、この際には保険給付がないため全額自費となり、短期間に5、6000万円が必要となるとのことでした。こうした状況を打破するにはどのようにしたらよいか?と突然、スライドで自分が指名されたわけです。その場で答えるのも熟考して答えるのも非常に難しい問題です。正直言って、私はこのような事例は天寿なのだから仕方がない、その人のみ救ったとしても他に多くの人々が亡くなっていくのだから、これは社会悪だと考えていました。しかし、濃沼先生から「なぜ、保険給付がなされない、諸外国では当然のことである」と説明され、愕然としました。私は誤っていた。保険制度を変革しなくてはならないと思いました。日本で治療が行えるように技術の向上を図るのが1番大切かと思いますが、海外での治療がなされる病気は心移植を初め、移植医療がその大きを占めています。移植医療にはいうまでもなく、ドナーが必要ですし、医療側の経験も必要です。社会を啓蒙して、ドナーを増やすことがまず、大切と考えます。ついで、技術を修得させる施設を増やし、医師を養成しなくてはなりません。しかし、これには10年、20年と時間がかかるでしょう。では、今すぐにできることは何かというと、社会が動いて制度を改革するのが一番大切なのではないでしょうか。それには、日本の貧しい医療技術を赤裸々に公表して、技術が不足する分野での保険医療がなされるように法律を改正すべきではないでしょうか。これにはマスコミの力が必要なので、相応する学会が働きかけなくてはならないにでしょう。しかし、保健医療費には限界がありますから、早く包括医療制度を開始し、余分な医療費を省くことによってこうした海外医療費を捻出してはいかがでしょうか。一部のボランティアによる募金活動ではなく、もっと多くの人々の力で政治を動かさなくてはならないのでしょう。単なる悲劇として報道されるのではなく、社会を動かすような報道が必要なのでしょう。社会の意識改革が今、求められていると思います。ずいぶん大風呂敷を広げてしまいましたが、以上が私なりに考えた対処法です。
 長々と述べさせて頂きましたが、ご一読頂きありがとうございました。最後にこの見学会をコーディネートして頂いた副島先生、ご講演を賜りたました濃沼先生、パス大会でご発表頂いた、本田先生、ご講義を頂いた道端先生、事務局のみなさまに御礼を申し上げ、終稿とさせて頂きます。


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