日本クリニカルパス学会第3回教育セミナーが、平成14年9月21日に広島で開催されました。題して「クリニカルパスによる医療保証プロセスの手法」。これまで東京で開催されてきたこのセミナーは、最新のテーマと豪華な講師陣のために大好評であったと聞いており、参加者281名の期待は否が応でも大きいものとなっていました。 そうした熱気に包まれる中、広島クリニカルパス研究会の光波康壮代表(中電病院院長、日本クリニカルパス学会第4回学術集会会長)の開会挨拶が行われ、三題の講演に先立ち、飯塚教授から、「医療の質向上の契機となる三種の神器として@リスクマネージメント(総合的マネージメントシステム)、Aクリニカルパス(プロセス管理)、BEBM(科学的管理)があげられ、これらにより総合的医療質保証システムを構築する必要がある。今回はパスを基軸として医療の質向上を考えるセミナーとしたい」と今回の趣旨の説明があり、演者の方々もまた真剣な姿勢で臨まれている緊張感が伝わってくるようでした。 当日の講演者、演題名、座長はそれぞれ次の通りでした。 1)東京大学大学院工学系研究科 飯塚悦功教授:「クリニカルパスによる医療プロセス標準化への道―その手法と課題」(座長:須古博信日本クリニカルパス学会理事長) 医療プロセスは患者の状態に応じて適切な医療を行う“適応型プロセス”であり、パスはプロセス(仕事のやり方)を管理するツールとして重要であること、標準通りの仕事を進めるためには患者状態適応型パスを考慮し、患者の変化を時間でなく“フェーズ”で認識し、“ユニットパス”を利用することが大切であることが述べられました。 2)早稲田大学工学部 棟近雅彦教授「クリニカルパスによる医療ケアの質の向上―コミュニケーションの手法としてのパスとリスクマネージメントとの関係」(座長:桑原正雄) コミュニケーションツールとしてのパスの解説ののち、質保証のためのツールであるパスについてQC工程表を例に説明がありました。質を展開する、医療版QC工程表を用いることにより異常、判断、評価を明確にすることが重要である点が強調されました。 3)武蔵野赤十字病院小児科 日下隼人部長:「クリニカルパスによる医療プロセス改善―武蔵野赤十字病院での実例」(座長:岩森 洋中電病院副院長) |
自院のクリニカルパス推進プロジェクトを紹介しながら、標準化と医療の質向上の必要性が指摘されました。 具体的な内容は以上でしたが、ここで当日行った参加者への終了時アンケートを紹介したいと思います。回答者は147名でした。まず「Q:セミナーは期待通りでしたか?」では92.6%が“期待通り”、次に「Q:参加した感想は?」では、“パスの基本的な考え方が解った”から“パスの目標がはっきりして作りやすくなった”など賞賛の回答が多く見られました。しかし、一部には“パスの運用方法を聞きたかった”、“パス使用現場での取り組みが知りたかった”など具体的な方策の紹介を求める声もありました。「Q:今後のセミナー・講演会で希望する内容は?」では、希望の多い順に“パスの具体例”、“バリアンスの収集方法”、“EBMとパス”、“アウトカムとパス”、“医療情報システムとパス”、“パスの使用法”であり、やはり具体的な事項への関心が目立ちました。「学会への要望は?」でも“パスの標準化”、“診療点数化”、“作成・運用方法”などが挙げられましたが、“研修会を頻回に開催”といった切実な要望も多く寄せられました。 今回は、定員オーバーのために参加できない人が出たほどの盛況で、参加者の約70%は広島県内からでしたが、県外それも遠くは熊本や名古屋からという方もいました。さらに、すべての参加者が4時間近く熱心に聴講し、まさにクリニカルパスへの関心の高さや拡がりを強く示すものでした。また、地方でのセミナーということで広島クリニカルパス研究会も関わらせていただいきましたが、地域への拡大のためには良策であったと自負しています。 クリニカルパスは新しい分野であり、すべての医療機関に等しく受け入れられているとは言い難いのが実状です。だからこそ、クリニカルパスのすそ野を広げ、理想的なパスの作成・運用を進めるためには本セミナーの役割は極めて大きいものだと改めて痛感しました。 |